絵画「「しまなみの夕景」(絵画/海のある風景)」 愛媛県今治市 絵と文:井上晴雄
「今治の夕暮れ」 2007年9月制作(愛媛県今治市) 絵と文:井上晴雄
「社会に出て、よう泣いちょったが、ふるさとの海を眺めるたびに、また頑張ろうと思うてな」。
道すがら、旅人からそんな話を耳にしてから、数年後、彼女の出身地である愛媛県今治市に足を運ぶ機会が訪れた。
広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ、しまなみ海道。それを渡り、今治市沿岸部に広がる織田ヶ浜に降り立つと、沖には、先ほど通ってきた芸予諸島の島影が、うっすらと浮かび上がっていた。
気がつくと、太陽は西に傾き、空は、錦色に染まっていた。風は凪ぎ、透きとおった波がキラキラと輝きながら、静かに押し寄せてくる。いつしか私の心は、あたたかい緋色に染まっていた。
人の心には、思い出という宝石の数々がある。ただ、大人になり、毎日を忙しく過ごすうちに、いつしか、それらを思い出すことをやめてしまう。そればかりか、目先の損得や地位名誉に目が眩み、次第に心は枯渇していく。心が疲れたとき、少しばかり足を止めてみたい。そして、少年少女だったあの頃の想い出に浸ってみたい。
海はあたたかく、どこまでもやさしかった。いつのことだったか、遠く過ぎ去った日に見た、あの日の夕陽とどこか似ていて、懐かしさのあまり、涙した。








