絵画「桃尾の滝」
「桃尾の滝」
布留川の上流へ向かい、鬱蒼とした樹林にのびる山坂道を上っていく。山の冷気が漂い、水音が高くなってきたかと思ったとき、視界に大きな滝が飛び込んできた。 「桃尾の滝」だ。
滝壺に向かって清水が岩肌を勢いよく流れ落ち、瀑声が山々に響き渡る。その落差は23mにも及ぶのだという。思わず深呼吸をした。奈良県北中部に位置する、この 「桃尾の滝」に私が訪れるのは人生で2回目ということになる。
初めて「桃尾の滝」に訪れたのは、今から40年近く前のことだ。当時の私はまだ小さな子供で、母に連れられて同じ山坂道を上り、この滝にやってきた。
歩きはじめは意気揚々であったものの、どれだけ坂道を上っても滝にたどり着かず、疲れと先の見えない不安から座り込んでしまった私。そんな私に母は優しく声をかけ背に負って歩を進めてくれた。
今になって考えると、身長140㎝ほどの女性が子を背負って滝への坂道を上るのには相当な困難を伴ったに違いない。それでも「桃尾の滝」を何とかわが子に見せようと母は一生懸命だったのだろう。
年月は流れ、母は天に召され、私は社会人としての毎日を歩むようになった。ときには思い通りにいかなかったり、先の見えない不安を感じたりすることもある。ただ、そんなときも、初めて「桃尾の滝」を見た日の感動を思い起こすと、不思議と前に進もうという気持ちが湧いてくる。
(「桃尾の滝」絵と文:井上晴雄/2020年制作/f4号水彩)
(「桃尾の滝」絵と文 井上晴雄F4号水彩/2020年制作)


















