長門峡の秋
ある霧が晴れた日、JR長門峡駅で列車を途中下車した。山口市側の渓谷入口にあたる道の駅から、阿武川の河岸に沿ってのびる探勝道を辿る。
眼下には白く速く流れる悠々とした流れ。日本海に向かい、澄んだ瀬音を立てながら流れていく。川べりには石英斑岩が侵食されてできた奇岩怪石がまるで屏風のように連なっていた。
長門峡は山口市から萩市にかけてつづく四季折々の景色を楽しむことができる景勝地。山ひだにはケヤキ、クヌギ、モミジなどが黄色に赤色にと染め競っている。そして、その鮮やかな秋色が深い淵に映し出され、ゆらゆらと揺れていた。こもれ陽が飛沫をまぶしく照らすたび、その余韻が絃の音のようにやさしく伝わってくるように感じた。
(F10号水彩/絵と文:井上晴雄)







大正年間、片上鉄道が開業。瀬戸内海に面する、備前市の片上駅と、山間部にある柵原駅間の約34kmを結び、活躍していた。終点の柵原には鉱山があり、採れた硫化鉄鉱を運搬する役割も担っていた。 しかし、昭和から平成の世となり、鉱山の産出量が減ったことや、沿線で過疎化が進んだことなど、さまざまな要因が重なり、惜しまれながらも、1991年に廃線となった。片上鉄道が線路から姿を消してから、もう20年近い年月が経つ。当時、この車両が、たくさんの人や鉱石を乗せて行き来していた姿を想像すると、何とも言葉にできない気持ちになった。絵描きができることはごく限られている。ただ、せめて、その歴史の痕跡を僅かでも、残させていただきたいと思い、筆を執った。 (2010年8月制作/「懐かしの片上電鉄」/岡山県久米郡美咲町(旧柵原町)/風景画/水彩/作品 絵画(風景画)と文 井上晴雄)







