絵画 「雪のプラットホーム」 絵と文 井上晴雄
雪の舞い散る日、山間のまちへ向かう列車に乗り込んだ。三両編成のディーゼルカーは、ガタンゴトンと軽やかに線路を軋ませながら、なだらかな盆地をひた走っていく。窓外には、うっすらと雪化粧をした田畑と、残雪の山並み。勾配が上がるにつれて、次第に雪が深くなってくる。トンネルを抜けると、エメラルドグリーンの色を呈した湖が広がった。山裾には民家がしがみつき、湖面に静かに映りだしていた。
ちいさな谷間の駅で列車を降りた。朝から吹雪いたそうで、随分冷え込んでいる。 ふと、プラットホームに目を遣ると、雪のなかに、ひとりの老婆がポツンと立っているのが目に飛び込んできた。都会に向かう家族を見送っているのだろうか。いつまでもいつまでも、レールの先を眺める彼女の姿が印象に残った。
粉雪はいつしかボタン雪に変わり、レールの先に遠ざっていく列車の影は、みるみるうちに、白銀の世界と同化されていった。
(2009年1月制作/雪のプラットホーム/F8号/風景/絵画と文 井上晴雄./風景絵画)